こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

見ておいて損はない名作映画100選の3作目。映画:イン・ディス・ワールド

この映画はかつて映画館で見たことがある。「いい映画だな」という印象は受けたものの、中身はほとんど忘れてしまっていた。だから今回DVDで見直して驚いた。こんなにもいい映画だったか?当時、私は何を見ていたのだろうか。

アフガン難民がブローカーにカネを払い、パキスタンの難民キャンプからロンドンに亡命しようとする物語。今「この世界で」同じようなことがたくさん起きている。

 

第3作目。マイケル・ウィンターボトムの作品だ。

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イン・ディス・ワールド
(2002/イギリス)
IN THIS WORLD
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ジャマール・ウディン・トラビ/エナヤトゥーラ・ジュマディン

ざっくりとした内容

アフガニスタン難民の多くが住むパキスタンの難民キャンプ。ふたりの若者が、新天地ロンドンへ亡命を試みる!青年エナヤットの親は、”運び屋”ブローカーにカネを出して、エナヤットをロンドンに亡命させようとする。英語の話せる孤児のジャマールも一緒だ。ジャマールには通訳として同行する。ジャマールとエナヤット、彼らは従兄弟どうしなのだ。

*難民が亡命する手順はこんな感じ。”運び屋”さんが途中まで運んでくれる。→”運び屋”さんが手渡してくれた電話番号に電話する。→別の”運び屋”さんが登場する。そして、どこだかわけのわからないところに運んでくれる。→その人が手渡してくれた電話番号に電話する。次の”運び屋”さん登場→以下、くりかえし。”運び屋”さんとはことばが通じないから、いつ、どこに連れていかれるのか、わからない。泊まるところも”運び屋”さん次第だ。しかも何日待たされるかわからない。いつだって、不安いっぱいだ!

*難民が亡命するのは危険で過酷だ。トラックの荷台の狭いスペースに押し込まれたり、コンテナのなかに閉じ込められて船で運ばれたり、雪が降りしきる真っ暗な山道を歩いて越えたり、どう考えったって普通の人間がやることじゃない。どうなる、ジャマールとエナヤット!?

 

かんたんレビュー

この映画は、多くの難民から取材した実話をつなぎ合わせたドキュメンタリータッチの「フィクション」だ。ずっと主人公ジャマールの目線で描かれているために、自分が難民として亡命への旅をしているかのような気分を味わえる。難民キャンプの状況は絶望的だ。なにせ、レンガ職人として働く14歳のジャマールの日給は1ドルにも満たないのだから。二度と親兄弟や親戚と会えないかもしれない。自分が生まれ育ったコミュニティーとも一生切り離されたままかもしれない。それでも異国を目指す覚悟は凄まじいものがある。

 

パキスタンのペシャワル。バスの車窓から見つめる風景はうるさくて雑然としている。クラクションが鳴り響き、所狭しと多くの人々が路上に店を広げている生き生きとした雰囲気は、まさに「アジア」そのものだ。そんな町の風景がどんどん荒野そのものとなっていき、気温も下がっていき、ついには彼らが話していたことばも通じなくなる。到着した町では、手渡された電話番号に電話をかけ次の”運び屋”を待つのだが、その”運び屋”にどこに連れていかれるか全くわからない。だから、いつだって不安だ。次の”運び屋”が現れるまで、安ホテルで何日も足止めを食らうこともある。イスタンブールで”運び屋”を待ちながら、ジャマールたちが現地の金物工場で働いているシーンがあったが、彼らは旅の途中でこんなこともしているのかと驚く。これが「現実」なのだ。

 

移動手段も過酷だ。トラックの荷台に積み上げられた荷物のわずかな隙間に体育座りしてまる一日以上移動とか、険しい雪山を深夜に徒歩で越えて国境越えとか、コンテナの中に40時間以上も閉じ込められて船で移動とか、「水は?睡眠は?トイレは?風呂は?」と人間としてあり得ないとんでもない状況が続く。いつ命を落としたっておかしくない。

 

しかし、彼らは悲惨な思い「だけ」しているのかといえばそうではない。例えば、イランとトルコの国境付近で、ジャマールとエナヤットに深い同情を寄せ、温かい食事と寝床を貸してくれる女性たちがいる。彼女たちはふたりの若者の行く末を心配し、旅先の幸運を祈ってくれる。また、フランスのサンガット難民キャンプで声をかけてくれた青年も助けてくれる。ロンドンのレストランで働いていたものの、いきなり強制退去を食らったらしい彼は笑顔で言ってくれるのだ。「ロンドンに着いたら仕事を紹介するよ」と。

こういったシーンが、この映画の救いだ。いつだって、どこだって、国やことばが違ったって、助けてくれるのはイスラームの同胞たちだ。そこに胸がぎゅっと熱くなる。

 

ちなみに、主演を務めたジャマール(本名も同じ)やエナヤットを演じたエナヤトゥーラは、現実の世界でもパキスタンに住むアフガン難民だった。ジャマールはイギリスに難民申請を出したが却下され、18歳になったら国外退去しなければならない。(今、彼はどこにいるのだろう?)エナヤトゥーラは出演料でトラックを買い、家の仕事をしているのだという。

映画は彼らの人生をも変えた。これも「この世界で」起こっていることの一部だ。

 

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