こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

ボッカッチョ著『デカメロン』<下>(平川祐弘訳/河出文庫)

デカメロン』も最終巻となる。下巻は第8目から第10日目が収録されている。これで十日物語の100話をすべて読み切ったことになる。

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ボッカッチョ著『デカメロン』<下>(平川祐弘訳/河出文庫

ざっくりとした内容

下巻に入っているのは8日目から10日目までの全30話だ。中でも印象的だった話を3つ挙げたい。

*第10日目第10話

サンルッツォ侯爵の長男グワルティエーリは、「早く結婚しろ!」という周囲の声に対して「結婚すりゃいいんだろ、結婚すりゃ」と、百姓の娘グリゼルダを嫁にもらう。グリゼルダは美しく気立てが良いうえに賢かったので、家臣からも慕われる。グワルティエーリも彼女のことを愛するようになるのだが、「どれくらい俺は彼女に愛されているのかな?」と試してみたくなり、グリゼルダに意地悪ばかりする。最後、幸せになるからいいものの、ちょっと度を超している。

*第8日目第7話

学者のリニエーリは、美しき未亡人エーレナのことが好きになり、振り向いてもらおうと愛を告白する。ところがエーレナには若き恋人がいる。彼女は「わたし、告白されちゃった」と恋人にわざわざ告げ、嫉妬させて喜ぶような女だ。しかも、「大丈夫、私はあなたのものだから」と言いたいがために、極寒の日にリニエーリを呼び出しておきながら待ちぼうけを食らわせ、その姿を恋人と一緒に見物してあざ笑う。

ところがリニエーリだって黙っちゃいない。エーレナへの愛は憎しみへと変わり、彼女に復讐を誓うのである。その復讐たるや、すさまじいものだった。

*第9日目第10話

ピエートロ親父は、ジャンニ司祭から魔法が使えるという話を聞かされる。なんと司祭は馬を人間に、人間を馬に変えられるというのだ。その話を夫から聞かされた妻は、「私を牝馬に変えてもらえば、あんたは馬を使って商売ができて倍も稼げるんじゃないの?」と言い、自分を牝馬に変えてもらいたいと提案する。ピエートロ夫妻の依頼を受けて、ジャンニ司祭は彼女を牝馬に変えることになった。その魔法たるや・・・ものすごくエロい魔法だった。

 

かんたんレビュー

第10日目第10話に関して、訳者の平川氏は注釈で「物語はほとんど数学上のゲームのようであり、それだけにリアリティーを欠く」とか「白ける」とか、けっこう手厳しく批判しているが、相手に意地悪をすることで愛情を確かめようとする大バカ者は意外とこの世にいるのではないだろうか。それが相手に対する虐待になるとも知らずに。

第8日目第7話は、リニエーリのエーレナに対する復讐がすさまじい。エーレナは若い恋人に逃げられ、よりにもよってリニエーリに相談しに行く。学者なら、彼の心を取り戻すいい魔術を知っているのではないかと。そこでリニエーリは、全裸になったエーレナに人里離れた場所にある塔の上に登らせることに成功する。エーレナが策略にはまったと気づいたときには、もう梯子はなかった。夜は明け、太陽は徐々に照り付ける。エーレナの苦しむ様子が生々しい。

頭に被り物は一切ない。それで真っ向から日に照らされた部分はただ単に焼け焦げたばかりか、数え切れない火ぶくれが生じ、いたるところで皮膚が裂け始めた。熟睡していた女はその日焼けの痛みに目が覚めた。(中略)加えるに風がぱたりと凪いでしまった。あたり一面、蜂や虻がぶんぶん飛び交っている。その蜂や虻が罅(ひび)割れて肉が露出したところに止まって猛烈に螫(さ)した。螫されるたびに鉄串を刺し込まれるような痛さだ。(下巻・P112-113)

つくづく思う。人の愛情は試してはいけない。思わせぶりな態度に翻弄された方は相手を恨むだけだ。その時の復讐のエネルギーたるや、恐ろしいものがある。

 

第9日目第10日の話はとびきりいやらしかったので、ここに引用する。ジャンニ司祭はピエートロの妻を牝馬にする魔法をかける。司祭は彼女に裸になるよう命じると、ピエートロの目の前で彼女に「尻尾をつける」のである。

そして最後に、尻尾を作る以外はもはやなにもし残していないと見るや、やにわに下着をさっとまくりあげ、それでもって人間の種を植えつける杙(くい)を掴むや、すばやく女の畝(うね)の溝に打ち込んだ。そこは杙を打ち込むように出来ていた。そして叫んだ、

「これが牝馬の美しい尻尾となるように」

ピエートロ親父はそれまで注意深く逐一観察してきたが、この最後の杙打ちばかりはあまりにもとんでもないことであったから、

「おお、ジャンニさん、そんな尻尾はいらないぞ。いらないぞ」

と声を荒らげた。だがそう叫んだ時には、あらゆる植物が根を張るために必要な液体ははやほとばしり出ていた。(下巻・P288)

 

夫が見ている前で堂々とヤるか?官能小説もびっくりの露骨さだ。14世紀に書かれたとは思えないほど生々しい描写だが、『デカメロン』のエッチな話はどれもしっかりとイヤらしいし、残酷な話はどれもしっかりと残酷だ。

10人の若者たちがペストから逃れようと郊外に避難してから、15日が経過していた。あまりに長逗留すると世間に非難がましいことを言われるかもしれない。ということで、彼らはフィレンツェに帰ることになった。

命が脅かされているときに、彼らはユーモアの力でこの現状を乗り切ろうとした。もし、私ならこんな時どんな物語を語るだろうか?今から考えておこう。

 

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