こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

「全訳を読めば、清少納言の魅力がわかる!」石田穣二訳注『新版 枕草子』(上・下)

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石田穣二訳注『新版 枕草子』(上・下)角川ソフィア文庫


若いお母さんたちには腹が立つ。あちこち散らかす子どもをほったらかして、おしゃべりに夢中になっている。たいした注意もせず、「そんなことしちゃだめだよ~」とか笑顔で言っているだけ。どうかしてないか?


これは私が言っているのではない。『枕草子』147段のざっくりした内容だ。だが、こんな苦情を現代でも耳にしたことはないだろうか。平安時代は歴史上でいえば「古代」に分類されるくらいの大昔だが、平安の世も現代の世も、人間はあまり変わらないという発見が『枕草子』にはある。

「イケメンのお坊さんの説教だったら夢中になって聞くけれど、ブサイクなお坊さんの話はあまり聞く気がしない」(30段)とか、「人の悪口を言っているのを聞くと、すぐに怒り出すヤツって、いったい何なの。人の悪口で盛り上がるのって、すごく楽しいじゃない!」(255段)とか、「元カノの話をする男って最低。しかも元カノをほめるなんてもってのほか」(251段)とか。

本音満載だ。なんというか、もう、笑えてくる。


彼女は高級官僚だった。中宮定子にひたすら仕えた。宮仕えの人間関係も、会社の人間関係並みに面倒なものだったこともわかる。
たとえば、清少納言のちょっとしたことばに過剰反応する男が登場する話がそうだ。清少納言のことばを自分勝手に皮肉ととらえ、「もうあんたとは絶対に口をきかない」とへそを曲げる。彼女に他意はないから「私が何を言ったというのですか。わけがわからない」と言うのだが、相手は聞く耳をもたない。(157段)言ったの言わないの、プライドを傷つけたの傷つけられたの、ちょっとしたことで心の中がざわざわしてしまう。オフィスでの人間関係は面倒だ。


頭中将に勝手に誤解され、あからさまに無視されたこともある。だが清少納言も気が強い。本当のことをいわれるならともかく、根も葉もないことを言われても困る。無理に釈明することはせず、彼女の方も意地になって頭中将を無視するのである。(78段)ところが、最後の方で、清少納言と頭中将のこじれた人間関係は元に戻る。一緒に仕事をしているのだから、ずっと口をきかないわけにもいかないだろう。


だが、清少納言は「女性は、一度も働かずにお嫁さんになってしまうのではなく、一度でいいから外に出て働いたほうがいい」(21段)とも言っている。こういう感覚が平安時代にあったことに驚く。


清少納言が仕えた中宮定子は、お産が原因で25歳の若さで亡くなってしまった。定子が亡くなったと同時に、清少納言も宮仕えを引退して再婚する。(下巻巻末の年表による。清少納言に離婚歴がある。)清少納言は、中宮定子がいかに才気があって美しい女性だったか、中宮定子のサロンがいかに華やかだったかをひたすら書いた。定子の評判を落とすことは一切書かなかった。

それだけに、中宮定子一家の華やかだったころの思い出を書いた段は切ない。どんなに彼女が素晴らしかったかを、これでもか、これでもか、と書き綴ったあとに、「中宮およびご一家の栄華は、今とは比べ物にならない。こんなことを書くと気が滅入るのだけど・・・」(263段)などと弱気な文章で結んでいるのだ。清少納言が弱気なことを書くと、淋しくなってしまう。

 

「古文」というと、文法や単語の勉強が煩わしいが、それはひとまず忘れて、現代語訳で全文読んでみるとその面白さがわかる。「抄訳」ではなく、誰かが書いた評論でもなく、原典の「全文訳」だ。あちこちの段を虫食い式に読むのとは全く違った体験ができるので、おすすめだ。

 

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