こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

作者未詳『虫めづる姫君 堤中納言物語』(蜂飼耳訳/光文社古典新訳文庫)

作者未詳『虫めづる姫君 堤中納言物語』(蜂飼耳訳/光文社古典新訳文庫

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平安貴族はいかにもヒマそうだ。書物もなかなか手に入らない時代だ。いったい何をして暮らしているのか?
ところが、いかにもヒマそうな平安貴族の物語はとても面白かった。

堤中納言物語」は十編の物語と一編の断章からなる物語集だ。表題の「虫めづる姫君」は特に印象的な作品だ。主人公は化粧っ気のまったくない風変わりなお姫様。着物の着方も変。眉毛は手入れをしていないからぼうぼうに生えている。お歯黒はしていないから歯は真っ白。虫が大好きで、特に毛虫がお気に入り。色気のないお姫様に大輔という侍女がいろいろ文句を言うと、お姫様はぴしゃりと言う。

「悟ってしまえば、恥ずかしいことなんて、なにもないよ。この世は夢幻みたいに、はかないものなんだから。だれがいつまでも生き長らえて、あれは悪い、これは善いなんて、判断できるっていうのよ。そんなこと、だれにもできないじゃない?」(79ページ)

 この答えはなかなか哲学的だ。まるでヘーゲル弁証法だ。何が「普通」で何が「普通でない」のか、短い人生の中でどうやって見極めるというのだろう。今いいと思い込んでいる価値観は簡単にひっくり返るのだ。よくぞ平安時代の人間がここまで鋭いことを書いたものだと感心する。
そのほか、恋い焦がれる姫君さまのもとに忍び込み、牛車に乗せようとしたところ、間違えて姫君のおばあちゃんを乗せてしまったという笑い話「花桜折る中将」や、突然恋人がやってきたので、あわてて化粧をしようとしたところ、おしろいと間違えて炭を塗りたくってしまい、恋人が逃げ帰ってしまったという「はいずみ」などの滑稽話も載っている。きっと平安時代の人々もおなかをかかえて大笑いしただろう。これらの物語できっと盛り上がったはずだ。その光景を想像するととても楽しくなる。
ただし、特に古典は現代語訳とはいえど、登場人物をしっかり把握しておかないと迷子になってしまうので要注意だ。人間関係もややこしい。だからこの本は線をひいたりマルをつけたり、普段以上に書き込みが多くなった。

古文そのものを細切れに読むよりも、現代語訳でいいから通して読んだ方が平安文学の面白さは味わえる。これだけ現代語訳が出ているのだから読まなければもったいない。

 

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