こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

新天地アメリカにおける初期ピューリタニズムのグロテスクさ。/ホーンソン著『緋文字』(小川高義訳)

ホーンソン著『緋文字』(小川高義訳/光文社古典新訳文庫

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ざっくりとした内容

*17世紀ボストン。三カ月の赤ん坊を胸に抱いた一人の美しい女性が、刑台の上で衆人環視の場に立たされた。彼女の名はヘスター・プリン。不倫をしたうえに不義の子をなした罪で監獄に入れられた彼女は、決して子供の父親の名を明かそうとしない。彼女の胸にあったのは、上質な赤い布を素材にして、絢爛たる金糸の縫い取りを施した「A」の文字だ。この緋文字が胸にある限り、彼女は通常の人間関係の外に置かれることになっていた。

*さらし者にされたヘスター・プリンを遠くから見ていた二人の男がいた。一人は若き教区牧師であるアーサー・ディムズデール。町で誰よりも尊敬を集める青年牧師は、実はへスターの子供の父親だった。もう一人は謎の医者・ロジャー・チリングワース老人。彼はへスターの行方不明の夫であり、名前を変えてディムズデール牧師に近づき復讐を企んでいたのだった。

*へスターは海辺の小屋でひっそりと暮らすようになる。赤ん坊だったパールは美少女に育ち、ふるまいはまるで妖精のように自由だった。彼女は手抜きのない刺繍で生計を立て、貧者には自分の食い扶持を切りつめても施すような善行を行い、つつましい生き方をしている。全く我欲のない彼女の生き方は徐々に好意的な目で見られるようになっていた。その後、へスターはチリングワースの毒牙からディムズデール牧師を救い出そうとするのだが・・・。

ぽんたの独断レビュー

この小説は「税関」という名の長い序文がある。セイラムの税関で働いていた著者は、ある日アメリカ独立前の当時の役人が残したという古い文書を発見する。『緋文字』はその文書をもとにして書かれた小説ということになっている。

「税関」の長い序文は重要だ。なぜなら著者はここで、イギリスから新天地アメリカにやってきた自分の先祖(初代と2代目)が「良くも悪くも清教徒の特徴を完備して、厳しい迫害を行った」ことを告白しているからだ。クェーカー教徒への迫害。女性教徒への仕打ち。多くの人々が拷問・処刑された魔女裁判

イギリス国教会と相容れなかった清教徒たちは新天地・アメリカをめざした」ことは歴史の教科書に載っているが、そこに待ち構えていた初期ピューリタニズムの息苦しさや異端者を徹底的に排除した残酷さまでは触れられていない。多くの犠牲者を出した「セイラムの魔女裁判」にはホーンソンの二代目も関わったという。初期ビューリタニズムの黒歴史はホーンソンにとって他人事ではない。だからこそ『緋文字』のような小説が生まれたのだろう。

へスターは緋文字を胸につけて生活することを余儀なくされ、一般社会とは交わることなく暮らすことになる。そのために厳格なピューリタニズムと距離を置くことができ、自由さを手に入れることができるという仕掛けになっている。胸には罪の証拠である緋文字があるので罪があることを隠し持つ必要もない。これが彼女の救いとなる。罪深く最下層に沈んだ人間が救われるのだ。

逆に子供の父親をひた隠しにしているディムズデール牧師は、贖罪の思いから信仰に打ち込むのだが、打ち込めば打ち込むほどどんどん生命力がなくなっていく。自分のことを血が出るほど鞭で打ち据えたり、断食したり、徹夜の行もしたり・・・しかし心の平安が訪れることはない。罪があることを隠して生きることは地獄そのものだ。彼はへスターと対照的な生き方をすることになる。

「信仰のための信仰」では本末転倒だ。罪ある人が救われなければ何のための信仰かわからない。『緋文字』は初期ピューリタニズムの黒歴史を暴き出すとともに、新天地アメリカの新しい信仰のあり方を模索した小説だともいえる。

 

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