こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

「ハラハラドキドキの展開。少年園の<特別室>に入れられたジャックに何が起こったのか?」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(2)ー少年園ー』(山内義雄訳)

ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(2)ー少年園ー』(山内義雄訳)

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第2巻はまるでサスペンスだ。感化院の<特別室>に入れられたジャックの様子がおかしい。いったい何が起こっているのか?兄のアントワーヌは感化院にジャックの様子を探りに行くシーンは、ハラハラドキドキさせられる。施設は清潔だし、園長は愛想がよくて親切だ。ジャックの体にも虐待のあとは見られない。しかし、園長のことばの端々ににじみ出る施設の様子や、ジャックの不自然な受け答えから、徐々に施設の実態が明らかになってくる。「アントワーヌよ、頼むから気付いてくれ!ジャックをここから早く救ってやってくれ!」と祈る気持ちにさせられる。まさに息をのむ展開だ。

2.少年園
チボー家の人々』第2巻のあらすじを紹介する。
親友と家出をしたものの連れ戻されたジャック。彼は父親のチボー氏が設立した矯正施設に入れられてしまう。それから9ヶ月たった。ジャックは、感化院の<特別室>の中で一種の監房生活を送っているのだ。この感化院はジャックの父親が「良家の子女のために」作ったものだ。
医者で兄のアントワーヌは、手紙ひとつ寄こさないジャックの身の上を案じる。少年園で、なにか不正なことが行われているような胸騒ぎがしてならないのだ。そこである日、アントワーヌはチボー氏に内緒でジャックに面会しに行くことにした。
このとき、アントワーヌは24歳。ジャックは15歳だ。

アントワーヌを出迎えてくれたのは、園長のフォーム氏だった。愛想がよく親切で、施設を隅々まで案内してくれる。以前ジャックと一緒に散歩を楽しんでいたレオンじいさんも人当たりがいい。ジャックの部屋にも案内された。質素なホテルの一室といったようだが、よく手入れが行き届いていた。部屋は暖められ、洗面器は清潔な布の上に置いてあり、タオル掛けには何本かの清潔なタオルがかかっていた。ジャックの身の回りの世話をしているアルチュールという男が、シーツもなにもかも整えてくれるという。刑務所のようなところを想像していたのだが、それは間違いだったのかもしれない。


ところが、当のジャックの様子がおかしいことにアントワーヌは気づく。久々の対面だというのに、どこか無表情なのだ。目は曇り、まなざしに輝きがない。不満はないかと聞いても「何も」。先生はいい人かと問われれば「とっても」。今の生活に満足しているとジャックは答えるのだが、アントワーヌは胸の中にざわつきを覚える。

アントワーヌは一度は感化院を後にするものの、わざと汽車に乗り遅れ、もう一度感化院に戻ってくるのである。そこでアントワーヌが目にしたものは、人としての尊厳など無視されたジャックの扱われ方だった。

(アントワーヌとフォーム園長の)ふたりは悪いところへ飛びこんだのだった。というのはふたりが廊下へ足を踏み入れるやいなや、アントワーヌには、弟が、園で便所と呼んでいる厠の中に、まる見えになってしゃがみこんでいるのが見えたからだった。戸は、アルチュールの手によってすっかりあけられ、そして、アルチュールは、その戸にもたれながら、パイプをふかしていた。
アントワーヌは、急いで部屋にはいっていった。園長は、もみ手をしながら、悦に入ってでもいるようだった。
「ごらんくださいましたか?」と、大きな声で言った。「お預かりしているお子さんたちは、ああしたところまで監督されておりますので」(P52-53)

部屋の様子もさっきと違う。昼食の膳はテーブルにのったまま。先ほどの清潔なシーツやタオルは影も形もなく、ごわごわのぼろがタオル掛けに引っかかっていた。弟はここで虐待されていたのだ。

 

 アントワーヌは園長の許可を取り、ジャックを午後いっぱい散歩に連れ出す。菓子屋に連れていくと、ジャックはがつがつと菓子をむさぼる。日頃まともな食事にありつけず、飢えていたのだろう。 初めは無表情で、何を聞いても反応が薄かったジャックもやっと普通の会話ができるようになってくる。

ジャックは泣きながら、アントワーヌに施設の実態を告白する。レオンじいさんにわいせつな絵を描かされていること。(レオンじいさんはその絵を売りさばいて小遣い稼ぎをしている。)絵に署名させられているので下手に告発できないこと。賭博場に連れていかれ、レオンじいさんが遊んでいる間、ジャックは洗濯場の中に鍵をかけられ二時間ばかり放置されること。アルチュールはジャックの身の回りの世話をすると称して、実は厳しくジャックを監視していること。先生はろくに勉強なんて教えようとしていないこと。ジャックの衝撃の告白にアントワーヌは驚きを隠せない。

こんなところに弟をこれ以上置いておくわけにはいかない。だが家に連れ帰ってもジャックとチボー氏はうまくやっていけないだろう。そこでアントワーヌは、家を出てジャックとふたりで暮らすことを決心するのだ。ジャックの生活はすべてアントワーヌが監督するという条件付きだ。もちろん勉強もしっかりとしてもらう。
この提案をチボー氏に納得させるにはかなり骨が折れたが、チボー氏の助言者であるヴェカール神父の助けもあって、アントワーヌはジャックを少年園から脱出させることに成功するのである。
チボー氏は、ジャックを少年園へ送った時には「やつの性根をたたきなおしてやるのだ!」と息巻いていたし、少年園からジャックを出すことも大反対する。しかし、久々に家に帰ってきたジャックを見たとき、チボー氏は心が動くのだ。

彼は、ふたりの息子を出迎えた。そして、弟息子をだいてキスしてやった。ジャックは、すすり泣いていた。チボー氏は、その涙の中に、悔恨と、よき決心のしるしを見た。そして、自分でも見せまいと思っていたほどの感動を見せてしまった。(P158)

この父子は近づきたいと思っている。しかし不器用すぎてこれっぽちいもうまくいかない。読んでいて切ない。


チボー氏がどうしても受け入れることができなかったのは、ジャックがフォンタナン家と付き合うことだった。父親にダメだと言われれば言われるほど、ジャックは反発する。フォンタナン家のダニエルはジャックと一緒に家出もした唯一無二の友人なのだ。興奮したジャックは「どうしてもダニエルに会いたいんだ!」と激情にかられてアントワーヌに訴える。訴えるうちに涙まで流すほど感情が高ぶってしまう。
すると アントワーヌは「よし、ぼくがすべてを引き受けよう。おやじにも司祭さんにもないしょでやろう。よかったら、次の日曜日行こうじゃないか」とあっさり承諾してくれるのだ。この時のジャックの戸惑いが面白い。え、今度の日曜?そんなに早く?
というわけだ。

チボー家の人々』では、登場人物の気持ちの揺らぎが実にうまく書かれている。かつて感じたことのある複雑な感情に読者も出会えるはずだ。

一方、フォンタナン家でも事件があった。フォンタナン夫人のもとにニコルという少女が現れる。彼女の母親はフォンタナン夫人のいとこで、フォンタナン夫人の夫ジェロームと不倫関係にあった。ところが母親はジェロームの他に愛人を作り、娘のニコルを置き去りにして愛人と逃げてしまったのだ。ジェロームはニコルにフォンタナン夫人を頼るように言う。慈悲深い夫人はニコルをあっさりと受け入れるのだ。

フォンタナン家を訪れたアントワーヌとジャックは、フォンタナン夫人、ダニエル、ジェンニー、ニコルに会うことになった。ダニエルの妹ジェンニーは14歳。彼女は例の家出事件の全責任がジャックにあると決めつけ、ジャックを恨んでいた。ところがジャックはジェンニーに何か惹かれるものを感じるのだ。

彼は、表情がゆたかな一方、無表情でもある顔のかげ、溌溂としていながらあくまで秘密をもらさない彼女のひとみの奥に、神経的なきまぐれと、ふるえてやまない鋭い感覚とを見てとってしまっていた。彼はふと、こうした少女をもっとよく知ることができ、その閉ざされた心の中に分け入ることができ、あるいはさらに、その友だちになることができたらどんなに愉快だろうと思った。(P229-230)

ジェンニーとの出会いは、ジャックにとって運命の出会いとなるのだ。

一方、ジャックはダニエルに会ったものの、腹を割って話をすることができなくなっていた。まる一年会わないでいたことは大きい。ジャックはダニエルに失望し、ダニエルはジャックに失望してしまう。かつては互いの友情は永遠だと熱く語り合った仲だというのに、あれは何だったのか。ふたりの友情はこのまま滅びてしまうのだろうか。

(第3巻に続く)

 

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