こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

「第一次世界大戦はどうしても避けられなかったのか?」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(9)一九一四年夏Ⅱ』

ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(9)一九一四年夏Ⅱ』(山内義雄訳)

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この本を読むと、どうしてもこう問いかけずにはいられない。第一次世界大戦はどうしても避けられなかったのだろうか。避けられたとすれば、どのような手立てがあったのだろうか。『チボー家の人々』は常に民衆目線で当時の様子が書かれている。彼らは「戦争なんて起きるわけないじゃないか」とかなり楽観的だった。戦争なんて他人事だった。おまけにフランス人の多くは戦争を望んでいなかった。

そんな彼らがいつの間にか戦争に巻き込まれてしまう。巻き込まれてしまったら出られない。「戦うのは国民の義務だ」と気持ちを切り替えるしかない。戦争を望んでいない普通の人々がどのように戦争に巻き込まれてしまうか、この本を読むとリアルに伝わってくる。

 

9.一九一四年夏Ⅱ
チボー家の人々』第9巻のあらすじを紹介する。

ピストル自殺をはかったジェローム。彼はオーストリアのある会社に名義貸しをしたのだが、その会社が破産してしまい、債権者たちから訴えられてしまう。彼は遺書を残して自殺を試みたのだ。意識不明のジェロームが運び込まれた病院で、ジャックとジェンニーは思いがけず再会することになる。何も説明せずにフランスから忽然と消えてしまったジャック。ジャックがいなくなったことで、体調を崩してしまったジェンニー。ふたりの間に気まずい空気が流れ、お互いよそよそしくふるまう。
結局、ジェロームは数日後に死んだ。女好きのジェロームにあらゆる苦難をなめさせられたフォンタナン夫人は、つかの間の安らぎを感じる。そして、夫が残した破産問題の後始末をつけに、オーストリアへ行こうと決意するのだった。

一方、フランス左翼新聞の『ユマニテ』社では、ジャックをはじめとする社会主義者の仲間たちが、ヨーロッパの情勢について議論を交わしていた。サラエボ事件は世界戦争に発展してしまうのか?戦争を引き起こさないためにはどうしたらいいのか?
オーストリアセルビア最後通牒を突き付けていた。つまり、「自分たちの条件を受け入れないなら、戦争をする」という通告だ。期限は48時間という極めて短いものであり、提示された条件もかなり厳しいものだった。ロシアは期限延長するよう、オーストリアに求める。しかし、オーストリアはロシアの仲介をはねのけてしまう。実はオーストリアは戦争を望んでいたのだ。


戦争をやめさせるには、民衆が立ち上がるしかない。国家、民族を越えて、世界中の労働者や社会主義者が団結し、大規模な反戦デモやゼネストを起こせば、お偉方が戦争をやりたくてもやれないだろう。プロレタリアートよ、団結せよ。ジャックは「インターナショナル」の力を特に強く信じていた。革命による社会変革もいいが、今は戦争を回避することが一番大切だ、と。ジャックは絶対平和主義者なのだ。

父親の葬儀も終わり、ダニエルが任地に戻る日がやってきた。ジャックはダニエルを駅まで見送りにいく。インターナショナルの活動が頓挫すれば、ダニエルの命も危険にさらされるだろう。「戦争にはならない」と、ジャックはダニエルに力強く宣言する。
ところが、「ジェンニーが来てるんだ」というダニエルの思いがけないことばにジャックは動揺する。振りむくとそこにジェンニーの姿があった。ジェンニーも兄の前でジャックを無視するわけにはいかず、目を合わせずに頭を下げる。ジャックは「じゃあ、失敬」と、逃げるようにその場を立ち去る。
ところが、駅を出た瞬間、不思議な力が彼を立ち止まらせる。運命が与えてくれるものを拒んでいいのだろうか。素晴らしい機会を永久に取り逃がしてしまっていいのだろうか。ジャックは踵を返し、駅に戻るのである。
ダニエルを乗せた列車は行ってしまった。兄と別れたジェンニーがこちらに向かってやってくる。ジェンニーはジャックの姿が目に入ると、恐怖の表情を浮かべ、そのまま顔を合わせないように出口の方に向かう。ジャックは「話したいことがあるんだ!」とジェンニーを追う。「いや!」「話があるんだ!」「行ってちょうだい!」と、ここからふたりの追いかけっこが始まる。追いかけて、追いかけて、追いかけて、ジャックはついに叫ぶ。
「ジェンニー、ゆるして!」
ジェンニーはそこで立ち止まる。互いに必要だと感じているのに、逃げたりはぐらかしていたりしていたふたりは、この場面から真に打ち解け合うのだった。

セルビアはついに、オーストリア最後通牒を受け入れた。国家主義団体《ノロードニャ・オブラーニャ》を解散させることや、反オーストリア活動をした疑いのある将校を軍隊から追放すること、などなど。しかし、誰を被疑者とするか審議する法廷の構成(法廷にオーストリアを入れるか入れないかという問題)だけは保留事項にしてほしい。つまり、セルビアはほとんど屈服に近い態度に出た。

ところが、この「保留事項」がオーストリアは気に食わない。結局、交渉は決裂した。オーストリアは初めから「戦争ありき」だったのだ。
セルビアオーストリアにここまで譲歩したというのに・・・ここで戦争を食い止める手立てはなかったのだろうか。

アントワーヌの治療を受けている外交官のリュメルは、人々の前では「戦争にはならない」と楽観論をぶちまける。しかし、アントワーヌには本音を漏らす。「世論を準備させておかなければ」と。情報を細工すれば、世論は思うように振り向けられる。
セルビアオーストリアが開戦すれば、セルビア擁護のためにロシアは動員令を発動する。ドイツはオーストリアとの条約に従って動員令を発動する。露仏同盟により、フランスも動員令を発動することになる。もう実際に各国は戦争準備を着々と進めているというのだ。動員の必要などないと確信の持てる国などどこにもないと。

第一次世界大戦は各国が「約束」を固く守ったがために、ドミノ倒しのような形で起こっていくのである。


(第10巻につづく)

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