こだいらぽんたの読書日記

古典多めの読書日記です。名作映画100選もあります。

読んでいる人は少ない。でも多くの人に読んでもらいたい名作。/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(12)』『チボー家の人々(13)』

ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(12)エピローグⅠ』『チボー家の人々(13)エピローグⅡ』(山内義雄訳)

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 『チボー家の人々』第12巻と第13巻「エピローグ」は、第一次世界大戦終結を目前とした1918年5月から始まる。「イペリット・ガス」という名の毒ガスにやられたアントワーヌは南フランスの療養所で過ごしているが、発声障害や呼吸障害が出て容体が思わしくない。そこへ、彼とジャックの育ての親「ヴェーズおばさん」が亡くなったという知らせがくる。葬式に出るため、アントワーヌは久々にパリに向かうのである。

12.エピローグⅠ 13.エピローグⅡ


チボー家の人々』第12巻と第13巻の内容をまとめて紹介する。
「エピローグ」はジャック死亡後の、チボー家およびフォンタナン家の人々の後日譚が記されている。戦争は多くの人々の人生を変えてしまった。

フォンタナン夫人は、メーゾン・ラフィットにあるチボー家の別荘を借り、傷病兵のための病院を切り盛りしている。この病院には、ダニエル、ジェンニー、ニコル、そしてジゼールまでもが共に暮らしている。ニコルとジゼールは看護婦として働いている。

ジェンニーはジャックの遺児、ジャン・ポールを生んだ。ダニエルは戦線での負傷がもとで足を切断した。何をする気力もなく、絵も描いてはいない。甥っ子のジャン・ポールの面倒はよくみる。だがダニエルはアントワーヌにあてた手紙の中で、自分が負傷で性的不能になったことを打ち明け、自ら命を絶とうと考えていることをほのめかす。

アントワーヌとジェンニーは、外交官リュメルの助けもあって、ジャックの消息を知ることができた。そして、ジャックがアルザス上空から戦争反対のアジビラを撒くために飛行機で飛び立ったことも、その飛行機が墜落して火だるまになったことも知ることになる。

アントワーヌはこうした「ばかげた死に方」が腹立たしいと思い、ジェンニーは自分が妊娠していることも知らずにジャックが逝ってしまったことを残念に思う。
ジャン・ポールはジャックの顔立ちにそっくりだった。反抗的な性格もそのままだ。今やチボー家の血を伝える唯一の存在として、アントワーヌは愛情を覚えるのだった。

アントワーヌはアメリカ大統領ウィルソンが提唱した、国際連盟の理念に希望を託す。だが、外交官のリュメルは「清教徒の単純きわまる道徳論」だと笑い飛ばす。マルヌ、ソンム、ヴェルダン。アントワーヌにとって凄惨な思い出しかないこれらの地名も、リュメルが口にすれば、たちまち現実性をはぎとられ、なにか専門的な報告書の表題か、受験参考書の見出しのように思えてくる。戦争を実際にしている人間と、していない人間。そこには決して折り合いがつくはずはないと、アントワーヌは内心憤るのである。

「エピローグⅡ」の後半は、自分が助からないことを悟ったアントワーヌが、療養所の病室で書いた日記のみで綴られていく。彼の肺は毒ガスで致命傷を負ってしまった。日記にはアントワーヌの体力が消耗していくことが伺えるとともに、記述内容ががどんどん短くなっていく。アントワーヌが死につつあることがわかるのが切ない。
アントワーヌは、ジェンニーに思い切った提案をする。それはふたりが戸籍上の夫婦となることだ。目的はふたつだ。ジャン・ポールを私生児にせず、れっきとした姓を与えて、子どもが被る社会的な困難を少なくすること。そしてアントワーヌの財産をすべてジャン・ポールに与えたいということ。

しかし、ジェンニーはアントワーヌの申し出を断る。自分の行為の全責任は自分で負うというのだ。ジャックの子どもはジャック以外の父親を持つべきではなく、ジャックの妻はジャック以外の夫を持つべきではないと。彼女の頑なさもジャックそっくりだ。

それでもアントワーヌにとって、ジャン・ポールは未来への希望だった。彼はチボー家の血を引く甥っ子に対して、ああも生きてほしい、こうも生きてほしいと、何本ものメッセージを残す。その中で「人はなんのために生きるのか、なんのために最善をつくすのか」という問いに対するひとつの答えがでる。

それは、過去と将来とのためなのだ。父や子供たちのためなのだ。自分自身がその一環をなしているくさりのためなのだ・・・連続を確保するため・・・みずからの受けたものを、後に来る者へわたすため    それをさらに良いものにし、さらに豊かなものにしてわたすためなのだ。(第13巻 P194)

 1918年11月。ドイツ革命が起こり、カイゼルは亡命。ドイツと連合国軍との休戦協定が結ばれる。

第一次世界大戦終結の日まで、アントワーヌは生きていることができたのだ。戦争は彼を全面軍備撤廃の絶対平和主義者にしていた。ウィルソンの国際連盟に希望を託して。しかし、作者が「エピローグ」を書いたのは1937年から1939年にかけてだ。もちろん国際連盟を提唱した当のアメリカが、国際連盟に加入しなかったことも知っているはずだ。アントワーヌが国際連盟に希望を抱くラストはいったいどんな意味がふくまれていたのだろうか。

アントワーヌの肉体的な苦痛は日増しにひどくなっていく。声門はほとんど開かない。両肺に膿瘍が散らばっていて灼熱感がある。最後は窒息死になることが目に見えていた。

だが、彼は医者だ。最後の手段がある。それは安楽死だ。

十八日
両足に浮腫。やる気だったらいまならできる。すべて準備ができている。手をのばし、心をきめさえすればいいのだ。
ひと晩じゅう、戦いとおした。
いよいよ、その時。

一九一八年十一月十八日、月曜
三十七歳、四ヵ月と九日。
思ったよりもわけなくやれる。

ジャン・ポール       (第13巻 P235)

 『チボー家の人々』を読んだことがあるという人にはなかなかお目にかからない。それが残念でたまらない。しかし、現在の世の中がどうなっているのかを捉えるためにも、決して読んでおいて損はない。
たとえば、この本には、ドイツさえその気になれば第一次世界大戦を防ぐことができたのではないかと思われる個所がいくつも出てくる。また、「資本主義を破壊し、真の格差なき社会を作るには、戦争による徹底的な大混乱と大破壊が必要だ!」と主張するメネストレルのような「おかしな人」も登場する。

歴史は連続している。過去を振り返り、現在の状況を掴んだり未来に何が起こるのかを見通すのに、こういう小説は大変役にたつにちがいない。
それに、一番大事なことだが、『チボー家の人々』は圧倒的に面白い。先の展開が気になって気になって、全13巻などあっという間に読めてしまう。
青春群像劇としても、 ヨーロッパを知る上でも、戦争を考える上でも、多くの人に読んでもらいたい。

 

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